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脊振に伝わる伝承をご紹介します。ちにた 脊振の伝承

脊振山
脊振地域では、中山間ならではの植物(草木)の利用が行われていましたが、
現代ではその姿を消しつつあります。
また、高齢化が進み、伝承も途絶えようとしています。
そこで聞き取り可能なギリギリの今、地域の伝承を調査し、学び、
現代ならではの新しい利用活用方法を探ります。


シリーズ1,刺身コンニャク編

浮世絵



メンバー

 2023年11月、70世帯、約150人が暮らす神埼市脊振町の岩政倉今地区の鶴田良治さん(写真上)、堤京子さん(写真左)、古賀すずこさん(写真右)に作り方をお伺いしました。
岩政倉今地区の岩屋地区と政所地区は、城原川ダムの建設予定地で、水没する範囲や着工日は未定ですが、2030年にはダムが完成する予定となっています。


ダムに伴い、移転する3人は、今のうちに各家庭に残る刺身コンニャクの伝統を守ろうと、製造販売を始められました。
コンニャク芋に含まれるグルコマンナンは、水を吸収すると膨張して容積が大きくなり、粘度の高いコロイド状態になります。これに灰汁(アク、アルカリ性)を加えて加熱すると、固まって半透明の弾力のある塊になります。
多くはコンニャク粉と石灰水その他のアルカリ(凝固剤)を使いますが、脊振の刺身コンニャクは生芋と藁からの灰汁、脊振の湧水を使います。
では早速、作り方です。
1,灰汁(アク)作り

藁束
藁束を焼きます。灰にはせず、黒い炭の状態で、水につけます。そっと漬け、形を残します。ぐっと押し込んで砕くと、後の濾過に時間がかかります。漬け時間は最低4時間。一晩浸けておくと安心だそうです。
ザルに目の細かな布を敷き、焼いた藁と、漬け込んだ水を注いで濾過します。濾過した水をさらに上から注ぎ、これを6-10回繰り返します。乾いた藁を使うと、灰汁が綺麗な透明になるそうです。


藁束

藁束

藁束
藁で小さな三角の輪を作り、できた灰汁につけ、引き揚げて輪に幕ができると完成です。
この時点で、灰汁のpHは11.2でした。出来た灰汁は1年間は保存できます。少しヌルヌルしていて、舐めると、甘みを感じます。


灰汁の完成ムービー

2,コンニャク芋の加工

コンニャク芋
収穫したコンニャク芋です。右上の芋が3年物で、これを使います。
中位の芋は2年物、左下は生子と呼ばれる種芋で、2年物と一緒に、春に畑に植え付けます。
生芋をほんの少しかじってみました。それはそれは、強いエグミで、舌の上に何発も爆弾が落ちたような感じです。灰汁でうがいしても効果なし。結局、舌を風と日光に当てること小一時間。少しは感覚が戻りました。


コンニャク芋
生のコンニャク芋を使います。11月でしたから、掘り立ての芋が手に入りますが、皮を剥いて冷凍保存もできるそうです。使用する芋は3年物。


コンニャク芋
皮を剥いたコンニャク芋と灰汁をミキサーにかけて細かく砕きます。

生のコンニャク芋のpHは7.2。芋1kgに対して灰汁5リットル、1対5の割合です。

3,刺身コンニャク作り

刺身コンニャク
ミキサーで砕いたコンニャク芋と灰汁を鍋に移し、中火で煮ていきます。
焦げないように、たえずかき混ぜます。


刺身コンニャク
加熱してしばらくすると、灰汁が浮くので、丁寧に取り除きます。
竹の子を湯がく感覚に似ています。


刺身コンニャク
次第に粘りが出て固まってきます。
これが完成の目安の粘度。中の温度は70度程度でした。そのまま食べてみましたが、唇に少しエグミが残る程度です。

仕上がりの感じです。かき混ぜて鍋底が見え、ツノが立つ感じ。
完成ムービー

刺身コンニャク
バットの底を水で濡らしてコンニャク芋がこびりつかないようにします。
バットに完成した物を流し込みます。この時、空気が入らないように表面をペタペタしてあげます。このまま2時間ほど室温において、冷まします。当日は室温17.5度、湿度75%でした。



3,刺身コンニャクの完成

刺身コンニャク
流し込んだコンニャクが冷めました。
これを、食べやすい塊に切り分けます。この時点での試食では、食べた後、灰汁が少しだけ感じられました。


刺身コンニャク
鍋にたっぷりの水を入れ、その中に切り分けたコンニャクを入れます。その後、火を付けて煮ながら灰汁を抜きます。この時点で少し食べてみましたが、ほんの少しだけ灰汁を感じますが、気になるほどではありません。


刺身コンニャク


刺身コンニャク
どんどん煮ていくと、コンニャクが膨らんできます。


刺身コンニャク
ここまで膨らみました。沸騰してから約1時間です。


刺身コンニャク


刺身コンニャク
茹であげたコンニャクを流水にとり、荒熱をとるとともに冷まして行きます。


刺身コンニャク

刺身コンニャク
荒熱が取れた刺身コンニャクをザルにあげ、水気を切ります。落ちてくる水分(抜けた水分)は、刺身コンニャクの5%未満。このまま一晩ほど置いておき、味を馴染ませます。もちろん、出来立ても美味。


刺身コンニャク
生芋と藁のあくから作る、脊振伝統の刺身コンニャクの完成です。


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